2011年11月24日木曜日

Ortofon 【オルトフォン】 SPU GTE の不思議#6

ダンパーは必要悪か
大抵のカートリッジにあるダンパーという小さなゴムのようなぷにょぷにょした物体。
これが、実は大変な働きをしている。 

カンチレバーは、保持するためにテンションワイアー端を固定すると、手で持った釣竿のようなもので、外部から一度信号が加わると振動系が持つ固有の振動が収まるまでビヨ~ンと振動してしまう。当然コイルに伝わり出力信号と成ってしまう為、これは非常に”不味い”現象である。
(実際は、針圧というプリロードが掛かっているし、アームの振動モードも重畳するのでまったくの野放図に振動する訳ではない)。

一方、針先から見たカンチレバーはグルーブに沿って漏らさず振幅しなければならないため、出来るだけ振動し易くしなければ為らない。と云う相反する用件をクリアする必要がある。
さて、どうするか?

エレガントな解法
何たる妙案!オルトフォンはこの難しい問題を実にスマートかつエレガントに解決した。
それは、一つ(複数)のゴムをコイルの後ろに入れる。これだけ。
-カンチレバーのダイナミックに変化する音楽信号は吸収せずに、不要な固有の振動だけを吸収する-いわゆる一次のアコースティックフィルターを形成するという絶妙な方法。



ゴムは曖昧
一方、ステレオ ピックアップの原器ともされる WESTREX 10A,NEUMANN DST62 はカッターレースに範を取り ダンパーなどに頼らない剛毅な独特な構造を採用している。 マニアには、これ等の構造は実に魅力的に映る。

見方を変えれば、”ダンパーの働きは、巧妙ではあるが、曖昧なゴムに依存していダンパーがカートリッジ性能向上の足枷になっている。特にゴムと言う奴はまったく頂けない。不要な振動を吸収する時に、同時に音楽の微妙なニュアンスまでも、吸収しているのじゃないか”という見方がある。

主流となったオルトフォンタイプのオルタナティブとして大きな可能性も期待され、ゴム・ダンパーの排除を至上命題としていたSATINを最後にこのタイプは現れていない。SATINの構造図を見るとその精密さに感嘆する。(実際はシリコンオイルで一次共振をダンプしている)。



ダンパーを採用するメーカーもゴムの持つ曖昧さ・ノンリニアーな処は認識されていて、現実的な手段としてダンパーのリニアリティーの高い素材の開発や、弾性の異なる組合せ・形状・分割など設置方法の工夫によりこの問題に対処しようとしていた。

ここでも、オルトフォンは巧妙であった。初期SPUのダンパーの断面は、丸く本当のドーナツ状になっているように見える。これは微少入力から最大入力まで、リニアにダンパー負荷が変化することになり、理に適った良い設計だと思うのだが、時を経たモデルのモノは、ワシャーのような平板な形状になっているのは残念である。初期のモノが音が良いとしたらこのダンパーの違いが材質や形状も含めて最も大きいのではないだろうか。


安定したダンパーの性能が得られるようになったのか、最近では新たなアプローチは、ほとんど見聞する事もない。ところが、Lylaの最新のカートリッジは、今まで無負荷状態で設計されていたダンパ-に対し、針圧負荷状態でダンパーへの負荷がニュートラルとなるように設計されたダンパーを開発したとアナウンスしている。微少入力への追従性が向上する事が期待できる良いアプローチだと思う。

ゴムの音
さて、オーディオに於いてはゴムは”不要な振動を吸収する時に、同時に音楽の微t妙なニュアンスまでも、吸収している”と考えられたり・評価される事がままある。これが事実であれば、徹底的にゴムは排除されなければならない。

実際色々なモデルで検証すると、特に一番ゴムダンパーの影響が顕著に現れると考えられるアタックの再現も十分である。使い易さも考慮するとゴムダンパーは良く健闘していて、僅かでも音楽を阻害する要素が有るのかも知れないが”必要悪”ならず”必要良”と思っている。

現代カートリッジのアーキテクチャー: ネオジム・ファインライン・ボロン が更に有機的でヒューマンな味を身につける鍵は、このダンパーではないかと勝手に想像している。


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