2012年8月30日木曜日

ブランドはミームと成れるか #6 studer編

D/A コンバータの実際
デジタルに於けるオーディオの問題点と技術的目標として、可聴帯域以上への伸張や24ビット・32ビットとビット数を上げるのは、諧調性や高密度の再現というよりも、実際はローレベルの再現性・量子化ノイズとの戦いである事が、本当の技術的目標であった事が解る。

それは、TDA-1540に始まり TDA-1541 TDA-1547 そして現在の最新鋭のD/Aコンバータに到るまで、同じ軌道の上にある。この問題にどの様に対処したのか、その実際を見てみたい。

試聴記は後日の予定であったのだけれども、結論から先に書いてしまうと、バランス-バランス接続したStuder D-730は凄く良かった。A-730も良いが、音楽を楽しませる表現力は互角で、まったく遜色ない。オーディオ的なニュアンスの豊かさと迫真性では、A-730を凌いでいるようにも聴こえた。A-730は音色がきちんと整えられ、喩えればマスターテープのような音で、D-730はマイクを介した生演奏の音のように感じる。ところが、世間の評価では、圧倒的に【マルチビット】が高く、ワンビットは高域がメロー・低域に力が無いと評される事が多い。確かに単体での音はその傾向があるのかも知れない。

世評の違いは、デジタル変換そのものに依拠している性質なのかを知りたいと思い、詳しく調べる事にした。ところが、基幹の技術であるΔΣ変調が難物で、理解の前に立ち塞がってくる。

当初TDA1547は、開発経緯からコストダウンのための開発と思っていたので、ワンビットだからと、高を括っていた。ところが実際は、TDA1541のブレークスルーを計ったコンバーターであり、その要がΔΣ変調であった。マルチビットからシングル・ビットへの移行は想像以上に大胆である。少し長くなってしまったのだけれども、お付き合い頂ければ有難い。

                                         
            

2012年8月20日月曜日

Shelter  カートリッジは前進する 六歩目

同名のブログ内容を大幅に加筆修正したので、新たに投稿します。
試聴の結果
前回の試聴では、Shelter【シェルター】 #7000 と SME Seriesⅴ との組み合わせで良い結果が得られた。このアーム、実際にセッティングをしてみると、取説・調整・使い良さを含めて、非常に良く考えられており、音の再現能力も含めて素晴らしいアームだと思う。詳述はこちら
アームでの音の違いを簡単に纏めておきたい。

Well-Temperd Reference Arm -
このカートリッジはウェルテンパードで聴くと、レコードの録音年代や製造時期、音楽のジャンルなど万遍なく対応する懐の深さがある。項目毎の評価はどれも中庸で、正に設計者が意図した鳴り方をするように思う。Seriesⅴを聞いた後では、屈託なく鳴ると言うよりは、型にはまった生真面目な鳴り方に終始し、冗談やシャレまで説明するようなところがある。破綻は無いが面白みも無い。

Artemiz -
”全てが中庸で、空間の表出も普通である。総じてバランスには長けている。 必要にして十分な響きを再現しハーモニーも破綻が無い。しかし、音の飛びと云うか遠達性・浸透力が弱く音に迫真さ・凄みの点で物足りない。” と前回書いたのだけれど、Seriesⅴを聞いた後の正確な印象は、音と響きのバランスが悪い。英語でいうところのTonality,Liquidityが物足らないように感じる。オーディオ的には鮮明な印象で良いのかもしれないが。

Seriesⅴ -
Seriesⅴ に取り付けると、まったく違った貌を見せる。欠点を一つ一つ潰し、減算した結果得られた様なネガティブな中庸さでは無く、中庸さが積極的な美点となり、全てが数段上がる印象だ。低音域の響きと切れが素晴らしく、そのため、ハーモニーがリアルに形成されるのである。

この音を聞いていると・・。”無線と実験”だったかに、SME Seriesⅴの測定結果が記載されていた事・・を思い出していた。一般的にアームの低域共振は15Hz前後を共振峰として盛り上がった特性を示すのであるが、SME Seriesⅴ のそれは、ほぼフラットと言えるほどなだらかでありながら、15Hz前後で急峻に減衰しており、固有振動の少なさを示す見事なモノで機械インピーダンスも頭抜けて良くコントロールされていた。オーディオの測定結果と実際再現される音の間には、実際にはほとんど相関の無い事を経験上知られているが、SME Seriesⅴ は十分に測定と試聴を繰り返ししてきた事を髣髴とさせる音である。

シェルターのカートリッジはアームをあまり選ばないと思っていたが、今回考えを改めることに成りそうである。

2012年8月8日水曜日

お知らせ

今日は。 

メンテナンス中  今までの投稿を、見直しています。

順次アップしていきますので、再読ください。

2012年8月4日土曜日

ブランドはミームと成れるか #5 studer編

TDA-1540に始まる D/Aコンバータ の特徴を調べていると、CDが世の中に現れてきた頃が思い出される。あの時代が持つ空気や熱気は、懐かしくもあるが、少し含羞を含んだ苦さもある。

黎明期、煌めくCDが何たるかを知らないままに、デジタルが見せる素晴らしいスペックを前にして、こう嘯いたものである。デジタルになったら音は機種によって変らない。アナログレコードは要らない。中には”脱アナログ宣言までした御仁がいて”廃品回収に大量のレコードが捨てられていたのもこの頃であった。

アナログ人間・デジタル人間と云う言葉で世相を捉えていたのもこの頃からではなかったろうか。保守性と先進性 ウェットな情緒と即物的な認識 世代ギャップなど、多くの事柄がこの対比の構造の中で語られていた。今となっては抗うことも出来ないデジタルの中にいる。
”私は、アナログ人間なもので・・・”この台詞を今聞くと奇異にも聞こえるが、”人間”を数値に換言する違和感へのささやかな表出だったのかも知れない。

デジタルの概念は何となく解っていても、実体は【0・1】を知っている程度の素朴なもので、単に次世代の技術として盲目的に受け入れていただけだったように思う。
解っている人は解っていたのだろうが、時代の雰囲気に呑まれた人々は、デジタルという言葉の持つ先進性にすっかり魅入られて自信を持って多くの事を語ったものである。

例えば、LHH2000が語られる時に必ず”14ビットなのに”と枕詞がついていた。暗黙で”14ビットより16ビット”の方が良いとしていた。数字による優劣の訴求。そういったマーケット常套のレトリックは、”バブル”といわれた熱狂が支えていると感じていたが、この不況下にある現在でも正しく有効であるのは、不思議である。

話をD/Aコンバータに戻すと・・
D/Aコンバータ不変の問題は、デジタルからアナログへの変換精度の確保と生産技術の鬩ぎ合いであり、目標とする性能の具現は、微小レベルでの再現性(リニアリティー)に在る様である。

このように捉える事により、TDA-1540に始まりTDA-1541 TDA-1547に続く流れとマルチビット・ワンビット・SACD・DSDの位置づけがより鮮明になると思う。

ここでもう一度D/A コンバータの精度を考えてみたい。考えるにあたってサヤ PURE SPEED殿のコラムを参考にさせて頂いた。D/A コンバータの技術的問題や現状を詳しく分析されている。ここにLHH2000の講評もあったので以下に転載させて頂いた。