2012年7月26日木曜日

Lowther ラウザー(ローサー)を読み解く #1

最も古い歴史を有しながら、今だ現役のLowtherは、雑誌でもあまり取り上げられる事もない。
名称も本来であれば、ラウザーと表記されるはずが、通称ローサーと呼ばれている。
残念な事に、このスピーカが広く形成されるイメージと実質の間に大きな陥穽があるように思う。

その間隙が、奈辺にあるのか Lowther ラウザーをよく知る人々の、感想・経験を通じて、記号としての、実体としての- Lowther - ラウザーを読み解きたいと思う。

多くのユーザーの持つ指摘や印象を赤色の文字で強調し、之に対する見解や当方の考えを青色で表記する。

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ボイスコイルの断線
一番よく知られているのは、或日突然切れてしまう、ということだろう。
披害者は多い。あまりに切れるので、これではかなわないと予備を買っておいた人がいる。案の定、或日突然切れたので予備のに付け替えたところがそれまでも…切れていたのである。

また、ある人がローサーを買おうとしたところ、「当店では、直接来店していただかないと売れない」といわれはるばる出かけていったところが、その店にあるローサーはどれも鳴らなかったらしい。当の御本人から聞いた話である。この私も別の店で同じような目にあった。ローサーに関しては定評のある店だったが、店内の6個のユニット全てが鳴らなかったのだ。

現在迄に PM4を50セット近く販売してきたが、今までにボイスコイルの断線は、DCアンプを接続した時の一度だけである。

ボイスコイル
先に勝手に切れてしまうと書いたが、これは、おそらくコーン紙が湿気で歪み、ボイスコイルとマグネットが触れてしまうからだろう。なぜかローサーのポイスコイルはコーン紙の内と外の両面についている。そのため余計に事故がおこりやすいようだ。

                                   

ボイスコイル ボビンはハトロン紙の様な質感で極めて軽い素材が採用されている。ラウザーの磁気ギャップは内外に僅か0.1mmしか余裕が無い。このためボイスコイル ボビンは高い真円度が要求されるはずが、在ろう事か、紙の接合部は空隙がありボビンは僅かに外側に膨らんでいる。”何でちゃんと作らないのかな~”と最初はこれの意味が判らなかった。 

!! ”ボイスコイルが内外に巻かれているのは、熱膨張による伸張(収縮)の影響を最小限にするためで、内外の差分を間隙を設けることによって回避する。” ためだと見ている。

EMI DLS529やドイツのスピーカーも同様にボイスコイルが内外に巻かれているモノはあるが、ボビンに空隙を設けているのは珍しいかもしれない。

初期 Voigt Driver のボイスコイルボビンは、円筒状で間隙はないので、製作上の都合もあるかもしれないが、敢えて選択しているのは間違いないと思う。
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スピーカー仕様
スピーカーの造りにも大変不思議なところがある。内部の配線だが、きわめて細い線が便われている。線の材質には、何種類かあって、銀線を絹糸で巻いたものもある。
しかしこれとて、スピーカーケーブルの太いのを苦労してつけても、その苦労を無にしてしまうこと必定である。スピーカーの端子の穴がとても小さく電源コードあたりが一番ぴったりくる大きさだ。

一時の頃よりもターミナルは大きくなっているが、スピーカーケーブルを太くするという事は、実際はマーケットトレンドで、特にラウザーの様に高能率のスピーカーに於いては、音質に寄与する訳ではない。スピーカーまでのラインをアンプ内部の配線から、順にスピーカーのボイスコイルまで追っていくと、細くなったり・太くなったり、また細くなったりしているのが判る。

このように、ローサーはユニットでは凝ったことをしているのに、他の所ではどこかぬけているようなところがある。

たとえば、PM4などはごたいそうな足が付いているが、これとユニットとは、たよりない3ミリほどのビス2本でとめてあるだけで、しかも、私の物は加工が悪く、穴を開け直したあとに、ねじを強引にねじ込んでとめてある。とてもプロの手になる代物ではない。

              

ここで、指摘されているのは上図中 ブラケット部品番号16 とスピーカーユニットを取り付けているネジの事だと思う。当方で輸入したモノも押しなべて同じような状態で、がっかりした覚えがある。実際、実装状態でこのネジには一切ストレスは掛からないので何の問題もない。

このブラケットはアルミの鋳造で製作され、おそらくは砂型であるため、穴あけは現物合わせで行われていると思う。 前職でイギリスのリファイナリープラントで、新設のプラントの設置に伴いコンピュータで統合するプロジェクトでの事。 1950年来、使用している計測器やコントローラーの取替えを頑として拒否してこう云っていた。”我々はいままで、これ等の計器で充分 上手くやって来た。何も問題が無いの取り替える必要は無い”  イギリス流 合理主義という事。
 
なお、PM4は最高ランクに位置するものだが、イコライザーの取付けポルトに鉄が使われている筒所があり、ローサーの創設者自身はPM2の方を気に入っていたという話も聞く。
しかし、私としてはPM4の強大な磁石とナスビのようなスタビライザーか伝わってくる、なみなみならぬ追力から、やはりPM2の以上の底力を持ったユニットのような気がする。

ここで、指摘されているのは上図中 部品番号1 イコライザー取り付けボルトの事だと思う。
鉄製の事もあれば、真鍮製の事もある。 オーディオ機器から磁性材を排除しなければならないというのは、幻想ではないだろうか? この場合は部品番号12 ポールピースにボルトが取り付けられるので、磁性材料の方が適しているとも考えられる。

ラウザーのユニットを殆ど使用してきた経験から、PM4は、ラウザーの更に云わせていただけるならダイナミックスピーカーの、白眉である。 

比較対象として、アキシオム80 ウェスタン755はPM6であり、PM4には比すべきスピーカーは存在しないと確信している。創設者自身はPM2の方を気に入っていたという事は、PM4を搭載したモデルをほとんど製作していない事からも窺い知る事が出来る。

PM4を搭載したフルレンジモデルはヘーゲマンと1990年代に作られたNew TP1位しか記憶に無い。強力すぎる磁気回路で、音のバランスが取りづらいためではないかと想像する。
 
lowther hegeman reproducer
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コーン紙が定まらない
ユニットに関しては、とくにコーン紙の材質については、色々いわれている。これまた不思議で外見がころころ変わる。昔はケント紙のような紙に、あやしげなニスのようなものを塗りたくってあった。

紙の正体だが、ケント紙と、あっさり断言する人もいれば、正体を見極めようと試み、画材屋でそれにちかい紙を見つけたそうだが、まったく同じ紙は、見つけられなかった人もいる。コーン紙に、ほとんどやけくそみたいに塗りたくってあるあやしげなものについても、ニカワなどの説があるが、人によってはっきりしない。

次に、最近のものだが、これは見た目も触った感じもまるでプラスチックのような感じで、音も今風である。エッジもスポンジからウレタンに変わった。一般にはこの新型の評判は悪いが、Sアンプで鳴らすかぎりは、こっちの方がよい場合もある。これにも不思議なことがある。私がこの新型をアコースタの箱に入れて聞いていて、3ケ月ほどたって帰除をしようとネットを外したところ。プラスチックのようなコーン紙が薄い紙に変わり、堅そうだったエッジもすけすけのスポンジのようになっていた。輸送時の振動にたえるために特殊な薬品を塗ってあるのでは、というのがDH編集部のとても信頼できる意見である(もちろんここだけの話である)。

ごく最近のもの(私の買ったPM4の場合)は、買ったばかりのコーン紙は緑色で、はじめて見た時はずいぶんと驚いた。紙も昔のような厚手のもの(といっても他社のスピーカーに比べれば薄いが)に変わった。これも使っているうちに緑色がクリーム色に変わってきた。あやしげなものは塗っていない。コーン紙もよく変わるようである。

コーン紙の材質に関して
ラウザーに触発された励磁型のスピーカー リスト D-1の製作者がコーン紙はワットマン紙であると、どこかで書いていた。1940年代という事から、真偽は定かではないが蓋然性は高い。

コーン紙の表面
怪しげなニスのようなものと書かれているのは、ドーサ引き処理の事である。
初期 Voigt Driver はドーサ引きにシェラックニスを使用していたとリストの製作者は書いていたが、色やイギリス家具の伝統から、その可能性は高いと思われる。後年になってシェラックは使用していないようだ。色むら等がで易いので、少しは外観に配慮したのかもしれない。

ロット毎に色が違うのは本当で、緑色・オレンジ・クリーム色と様々である。不思議なことに年数を経るとどの色も最終的に薄いクリーム色になる。厚みや質感も当初の様な違いは無いので、紙自体は同じモノだと思う。

ラウザーのドーサ引きは揮発するのかは判らないが、時間を経て退色したコーン紙はその分軽くなっている筈で(触ると薄くなっているのが判る)、新型よりも旧型の方が音が良いとするのもこの事情に拠るのではないだろうか。エージングに時間が掛かる事やリコーンにも同じことが云える。旧型が良いとかリコーンは良くないとかは、実際に使用していない人の訳知りで安直な判断だろう。

                                      Voigt Mains Energised drive unit
 
オーディオベクターのスピーカーユニットは真上、TP1は真下に向いて取付けられているが、これは単に音のためだけではなく、コーン紙が歪まないようにとの配慮もあるのではなかろうか?
 
Lowther ラウザー(ローサー) 解体 その3 当該箇所の抜粋
残念な事にラウザー(ローサー)の取り付けフレームは剛性が高くありません。 
そのためにPM-4には支持ブラケットがあるのですが、その他のモデルも共通のフレームを使っています。 フレームをボルトで取付けると、ほんの少しですが、このフレームが撓るのです。

その結果、僅か0.1mm のボイスコイルギャップは余裕がなくなり、ボイスコイルタッチを起こし好く、何故か音にも伸びやかさがなくなります。
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正体不明
次なる不思議は、ローサーそのものの正体がよく分からないことである。
私はユニットを個人で直輸入したのだが、ここ4年くらいの間に会社名と住所がころころ変わっている。杜撰な事に発注してから一年を経て納品となる。

今まで経験では、発注して一ヶ月以内に納品されていたので、この話は何とも不思議である。
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エンクロージャーあれこれ
エンタロージャーの数も大変多いようである。
ローサーのスピーカーで有名なのは、オーディオベクター、TP1、アコースタだろう。
どの機種も年代で形状がことなり、特に、アコースタなどはコーナーアコースタなどのバリエイションも豊富にあるようだ。どの機種も、エンクロージャーの作りは、古いものほど良い。
 
イギリスのオーディオマニアでも「名前は知っているが、見たことはない」という人が多いと聞いた。確かに現在の「LONDON」「Ambassador」等といった機種は、スピーカーというよりは高級インテリア家具である。「Ambassador」は、美しい木目のある木材を組み合わせた豪華な装飾(まさかプリントではないと思うが一)が施されており、キャビネットのような外観である。音を聞くときは、扉を観音開きにして間くようになっている。構造はカタログで見るかぎりTPlの流れを汲むもので、部屋の壁をホーンの延長として利用する思想は変わっていない。 

                                                                                

ラウザーのエンクロージャーは、豊かな独創を生かしたデザインに溢れて極めて魅力的である。木も古い方が良い材料が入手できたという事情もあるのだろうが、時代を遡る程に仕上がりも良くビンテージとしての価値も高い。
聴いた限りでは、音楽の再現という点に於いて一定の枠の中に収まったような限界を感じて興味も薄れてしまったが、Hegeman Reproducer とThe CITATION CL1は正直とても気になっている。

               
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ローサーの音
このようにややこしい話がいっぱいのローサーだが、音そのものはどうであろうか?
昔の雑誌のヒアリング記事などでは個性の強いスピーカーだといわれているようだが、実際に使ってみると、ユニット事態は特長のない音がする(あくまでSアンプでの話だが)。

オリジナルの箱の方がかなり個性があるようだ。どれも低音がですぎるほど良く出る。
 
ただ、フルオーケストラやポップスをガンガンを鳴らすのは、50ccエンジンでも飛行機が飛ばせるといっているようで、可能なことかもしれないが、ユニットのことを考えると賢明ではないだろう。

どの様に使うかは個人の嗜好・評価であればそれは自由、である。しかしその一端から見得ない全体を推量するのは大きな誤謬で折角の可能性を見失う事にならないだろうか。フルオーケストラ・ジャズ・ポップスを迫真のリアリティーで再現できる能力を秘めている。

Ortofon 【オルトフォン】 SPU GTE の不思議その5 で紹介しているアルバムを他のどのスピーカーも成し得ない超絶を聴かせる。


                                          

ダブルコーンは未素晴らしい
スピーカーの最高峰は、4インチ ドライバーを中心にした、マルチウェイ システムに尽きると信じていた。その威容・姿は実に魅力的で、JBL 375 は一際輝いて見えたものである。 片隅に追いやられたダブルコーンのスピーカーをヴィンテージファンの懐古趣味だと、見縊っていた。
まったく興味も無く”既に終わったスピーカー ダブルコーン”は古色でみすぼらしく見えた。

ある時、そのダブルコーンの素晴らしく鮮度の高い音に、心底驚愕し、今に至っているのだけれども、事はスムーズには行かなかった。
ラウザーを鳴らそうとすると、幾つかの関門があり、その第一が”高音”である。
キツイ・ギャン付くと指摘する人の多くは、その原因をサブコーンに帰する事が多く、ラジオ技術のライターも同様にその原因は、サブコーンにあるとして改造を紹介していた。
実際この”キツイ高音”には辟易とさせられた。それもあってサブコーンを中々受け入れることが出来なかった思い出がある。

時を経てその問題はサブコーンにはまったく責任がない事が判り、今ではサブコーンの叩き出す”高音”にすっかりやられている。バイオリン等の弦楽器も素晴らしい再現をするが、シンバル・ハイハットの”金属音”は、最高と評されるJBL 075をもまったく問題にしない。

ある時、知人から、サブコーンの有無のデータを見せられ、こう付け加えた。”内側に巻かれたボイスコイルはダイアフラムの働きをしており、実質メカニカル3ウェイなのだ”と。 特性は18kHzを超えて少し減衰しながら、20kHz超迄伸びている。 
素晴らしいじゃないか ダブルコーン。
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Lowther の未来
ラウザーを読み解くと題して、書き足りない点もあるが纏めてみた。
このダブルコーン フルレンジスピーカーの細部を見る試みは、今まで抱いていたこのスピーカーの全体像としてのイメージを変える事になっただろうか?それとも変わらなかった?

このスピーカーが現状で最も完成度は高いと思うが、双手を挙げて心酔している訳ではない。
フルレンジをメリットと捉えるか適度に妥協したモノと捉えるかは、人それぞれである。
どちらの立場を取るにせよ本質的な改善を計るのは、至難である。

何故なら、技術的選択は内在する相反要件を浮き彫りにする事であり、言い換えれば新たなバランス点を探ることを意味するからに他ならない。ダイナミックスピーカーの構造を詰めてゆくと、
実はF1の様に設計の自由度はそれほどない事が判るからである。
それでは、改善の余地は、あるのだろうか?

イギリス人は、モノの開発当初に思考の限りを尽くす革新性があるのに、ひとたび問題が無いと判断すると改善や改良しない保守の性向が強い。ラウザーも小さな変更は多々あるかも知れないが、実際のところ細部の詳細は意に介していない。製品としてコーンの形状やマグネットのバリエーションを生み出しているが、どれほど音質の向上に寄与しているのか疑問である。

実は改善・改良にもっとも熱心なのはドイツで、合理性を尊ぶ文化背景は、このスピーカーに新たな息吹を吹き込んでくれる後継者かもしれない。イギリスとドイツのスピーカーは、多くの技術基盤を共有している事は、BBCモニター.EMI DLS-529. Decca Decola に具現されている。
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Lowther のマーク
                                  

ラウザー初期のマークは、空を自由に飛翔する鳥をシンボルとしている。
その鳥の秘めたる能力を、私は篭の中に留めてしまうのか。
否、秘めたる能力は、私を” 鳥 ”にして胸透く空に飛翔させてくれる。





1 件のコメント:

  1. そのラウザーを買った
    オーディトリアムアコースタ同梱である
    その昔、大阪ステレオセンターでそのものを聴いて繊細でオーケストラが目前に並ぶ独特な世界に殺られた
    ボロの中古が38万円で当時は買えなかった
    今回はオクで30オーバーでこれまたボロだ
    イギリスから遥か日本に来る道のりはやはり相当遠いのだろう
    届いて音の印象をまたコメントさせて頂きますので

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