2012年7月13日金曜日

ブランドはミームと成れるか #4  Studer編

Studer A-730 vs D-730
前回までに A-730 の特徴と試聴の印象をまとめたので、今回から、いよいよ多くのスチューダユーザーの関心事であるA-730 と D-730を知りえる範囲で比較してみたい。

セットアップの済んだA-730 を聴いてあまりに良いので D-730とどっちが良いのかな~という個人的な関心もあり、聴いてみたかったというのが正直なところ。 

現在手元にあるA-730は CDM-4 を搭載している。アナログ回路も基本的に同一であるようなので、純粋にデジタル部の設計の違いだけを知ることができるという訳だ。 

世評では、アナログライクで、音楽的なのは、A-730
ワイドレンジで分解能に優れているが、オーディオ的なD-730
とされているようではあるが。

では、そのデジタルの歴史というと大袈裟ではあるがその変遷を・・


マルチビットの黎明
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- 別冊ステレオサウンド マランツのすべてより抜粋 -
CDの規格を定めた「レッドブック」では、分解能は16ビットとされている。しかし、マランツ初のCDプレーヤーCD-63やフィリップスのプロフェッショナル機LHH2000に使われたDACは、「TDA1540」という14ビット分解能のフィリップス製DACであった。日本勢のCDプレーヤーはすべて16ビット分解能のDACを搭載しており、仕様的にはマランツ=フィリップスは劣っていたということになる。だが、実測データや、音質で判断する耳の肥えたオーディオファイルの間では、TDA1540という14ビット分解能のDACを採用したCDプレーヤーの評価が抜群に高かったのだ。

実は、TDA1540と組み合わされていたフィリップス製のデジタルフィルター「SAA7030」に、優れた音の秘密が隠されていたのである。4倍オーバーサンプリングのフィルター性能を有するSAA7030は、同時に2次ノイズシェイパーという卓越したノイズシェイピング回路も同時に持ち合わせていたのだ。CD-63が発売された頃は、量子化ノイズの分布に周波数特性を与えて、ノイズ成分を人間の耳の感度が低い超高域にシフトさせるというノイズシェイピング効果について、ほとんど知られていなかった。SAA7030とTDA1540の組み合わせは、ノイズシェイピング効果により実質的に16ビット相当の分解能を獲得していたのである。

それだけではない。DAC以降のアナログ出力回路に組み込まれるアナログフィルターが、位相特性の素直さに特に注意を払って3次程度の緩やかなスロープに設定されていたのだ。当時の国産勢は、フィルターの遮断特性を9次や11次などのように高く設定していたので、マランツ勢の音質的な優位性は圧倒的だった。CD-34の音質が、超高級機であるLHH2000に準ずると褒めちぎられた所以である。
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とSAA7030とTDA1540が絶賛されている。この構成は、どのような特徴・技術的バックボーンから構成されているのかを調べてみると・・・
http://www.geocities.co.jp/Milkyway/5457/dac.htm に大変詳しく解説されているので、引用させて頂きます。 問題があれば連絡ください。 赤文字は当方で強調あるいは加筆したところ。

D/A 変遷
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- 1bitDACへの長い道のり ~そして、その先 より引用 -
CDに刻まれている信号が「16bit」だという事はご存知ですね。そして、fs(標本化周波数)が44.1KHzという事も。

16bitというのは量子化分解能です。16桁の0と1、即ち16桁の2進数、約6万5千段階です。 音楽信号の連続して変化する波形を44.1KHzでサンプリングします。つまり1秒を44100分割して、分割した1パートの範囲内では「変化して いない」とみなしてしまうのです。

本来電圧値は時間によって変化するので、アナログ的には時間(t)の関数 として捉えますが、デジタル処理では連続したものは扱えませんので、離散的なデータに変換します。これが「標本化」(サンプリング)です。各標本は「 時間の関数」ではなく単純な「量」です。

更にその「量」もまた、もともとはアナログ量(どんな値でもアリ)なんで すが、最大値と最小値を決めて、その間を6万5千段階に区切って、そのどれかのうち最も近い値(最初は単純に端数切り捨てか切り上げでしたが、最近は もうちょっと賢い処理をしています)を選びます。これが量子化(クォンタイズ)です。電圧値もまた連続量ではなく、離散的な値になります。

時間軸方向にfsを限りなく上げ、電圧値方向にはbit数を限りなく増やせば「離散」ではありますが「連続」と区別できなくなります。数学で言うと ころの「極限」は「アナログと同じ」です。でも実際には家庭で購入出来る価格でなければ意味がないので、その範囲で限界がありました。その値が44. 1KHzであり16bitだったのです。時間方向には44.1KHz、電圧値方向には16bit。この「細かさ」が「充分」かどうかは当時から議論の的でした。さてお気付きでしょうか。CDに刻まれた信号はそもそも「階段上の波形」なのだという事に。このギザギザが「量子化ノイズ」です。このノイズは凄く 大きなエネルギーを持っていますが、幸いな事に信号(20KHzまで)より高い周波数です。*(シャノンの定理から)そこでフィルタを通して不必要な高い周波数の成分を除去( 波形を滑らかに)してやると、元と変わらぬきれいな波形を再現できます。

CDの初期は、このフィルタの性能が勝負でした。20KHzまではきっち り通して44.1KHzから上はすっぱり遮断するなんてフィルタはどんなに金を積んでも実現できやしません。「きっちり」か「すっぱり」のどちらかを 重視するともう一方はある程度諦めなければならないのでした。その諦めの水準を僅かに高くするだけで値段は簡単に桁が増えてしまうのでした。

最初に「デジタルフィルタ」を導入したのはヤマハだったと思います。44.1KHzの間隔で並ぶデータの「間」のデータを「補完」して88.2KHz で標本化された信号としてDACにかければ、その後のアナログフィルタはかなり楽になります。これにより初めて定価10万円を割るCD-X1が発表さ れ、その後CDプレーヤは一気に低価格化できるようになりました。

もともとCDはエラー等である時刻の値が失われた時、前後の値から失われ たデータを「補完」するという技術を基本に持っていました。デジタルフィルタはその技術を見事に応用したと言えます。尤も、デジタルフィルタの技術そ のものはCDの補完技術から生まれたものではないようですが。

オーヴァサンプリングが常識となり、4fs、8fs、16fsとエスカレ ートしていきましたが、実際にはオーヴァサンプルだけでは4fs以上はそう大した改善がない事が知れると、オーヴァサンプル競争は一旦鎮静化します。

次に仕掛けてきたのもヤマハでした。今度は16bitのCDを再生するのに18bitのDACを使う「Hi-bitシステム」を発表しました。これ は実はデジタルフィルタの開発過程からすると自然な流れであったとも言えます。データとデータの隙間を計算により埋めようとすると、算出された値には しばしば「端数」が出ます。例えば1bitの段差の間を埋めようとすれば、その中間の値が出てしまいます。デジタルフィルタを最初から18bitで計算するものにして、18bitになって出てくるデータを18bitのDACで復調してやればより正確な出力が得られる。このハイビット化もすぐに過当 競争となり、現在では20bit以上が常識となっています。

しかし、20bitと言えば最大ビットと最小ビットは百万倍にもなります。 その間の階段をまっすぐに作るのは容易ではありません。レーザートリミング等で全体をまっすぐに近づければ逆に僅かなうねりが不規則に生じ、安物DACでは分解能は確かに20bitでも下4bitぐらいは意味がなかったりしたものでした。現在の技術でも直線性のいい20bitDACを量産するのは かなり困難で、それ以上のハイビットはあまり意味がないと思ってよいのではないでしょうか。

この少し前、マランツから4fs14bitDAC(*TDA-1540 CD-34の事と思われる)という不思議なプレーヤ が発売されています。日本では「下2bitを捨てるなんて!」とやたら不人気でしたが、実は結構いい音していたのでした。この製品の歴史的意味が真に 理解されるまでには21世紀に入ってしまうでしょう。 実は、使っているDACは確かに14bitDACなのですが、システム全体としては17bit分の分解能を持っていたのです。しかも14bitDACは精度が高いのです。最小ビットと最大ビットの比が16bitより2bi t少ない分1/4になるので、同じ精度で作ったら14bitの方が高精度になってしまうのです。DACの精度とは「最小ビット何個分の狂い」ですから、最小ビットの大きな14bitDACはその分狂いが小さいという事になるのです。でも、この製品は当時は鳴かず飛ばずで決してヒットはしていませんので、 今の歴史では大きく扱われてはいません。(現在では大きく評価されている)。

ハイビット戦争の真っ只中、フィリップスが「1bitDAC」(*TDA-1547の事)を発表します。マランツはフィリップスのDACを好んで使っていますから、先述の14bitDACシステムもフィリップスのものだったかも知れません。実はこの 1bitDAC(TDA-1547)、先述の14bit(TDA-1540)DACと同じ発想を更に進めたものだったのです。

1bit、即ち「0」と「1」の2値のみで出力するDACはフィリップス/ ヤマハのPDM(パルス密度変調)系とSONY/松下を中心とするPWM(パルス幅変調)系があり、PWM系の多くは電圧方向が2値ではないハイブリ ッド系パルスDACになっていますので、厳密には1bitではありません。よって以後「1bitDAC」という言葉を避け「パルスDAC」と総称します。

1bitDACは最大bitも最小bitもありませんのでDAC精度としては電圧的には電源の精度(電源電圧の変動が信号にモロに乗る)、時間的に は水晶発振器の精度になります。きちんと作ればとても直線性のよいDACシステムになります。パルスDACの先祖は70年代にトリオ(今のケンウッド)のFMチューナ に搭載された「パルスカウント検波」でしょう。しかしDACシステムに採用されるに至るまでにはもうひとつの技術「ノイズシェイピング(以下NS)」が欠かせません。

実は、オーヴァサンプリングを行うと4倍につき1bitの割合で分解能がUPしていたのです。4倍で1bit、16倍なら2bitという具合に。 そこにNSを使うと、更に2倍につき1bit、分解能が上がるのです。つまりNSを使った場合4fsで3bit、8fsでは4.5bit、16fsな ら6bit、分解能がupするのです。そう。先述のマランツのシステムはNSを搭載した最初のCDプレーヤだっ たのです。そのため4fsで+3bit、合計17bit分の分解能を持っていたのです。 

このNSを多重にかける技術がパルスDACの実現には不可欠だったのです。 2重ぐらいまでならそんなに困難はないのですが、3重以上かけようとするととても不安定になり易いのです。そこでフィリップスが採用したのは2次NS つき128fs1bit(これは本物)DACでした。128といえば2の7乗ですから、+17.5bit分の分解能改善が得られ、実に全体として18. 5bit相当の分解能が得られるのです。

これに対しNTTが松下と協力して作ったMASHは32~64fsで作るため3次のNSに挑戦、何とかこれを実現しました。3次だと32fs(2の5乗)で+17.5bitの改善が得られます。

MASHが3次にこだわったのは、パルスDACが宿命的に持つ高周波ノイ ズ問題を少しでも軽減したかったからでした。

パルスDACはとても高い周波数のパルスを使うため、フィルタなどお構いなしに電波となって空中を飛んで オーディオ信号系に飛び込んでしまうからです。専ら据え置の高級機を志向したフィリップスはしっかりしたシールドを施す事を前提に特性の素直な2次N S128fsを選び、ポータブルプレーヤに採用したかったMASHは32fsで済む3次に挑みました。  

以上が1bitDAC登場までのおおまかなDACシステムの歴史と解説です。

結構私情も入ってますので、細部は幾分(多分に)思い込みの部分もある かも知れませんが、技術的にはだいたいこんな感じで間違いないと思います。 現在では、マルチbitDACとパルスDACはどちらも熟成されていて、 どちらかが決定的に優れているとは言えません。

ただ安価な製品ではマルチbitよりパルスDACの方が安く作れるため殆どがパルスDACを使っています。逆に高価な製品となると高周波をシールドするのにコストがかかったり、オーディオとは無縁の高周波の技術が必要になるためオーディオ屋はマルチbitを選びたがる傾向があるように思えます。

いまだ気付かれないようですが、かのマランツのシステムは大きな「答え」 を示しています。直線性に優れる高速の8~12bitDACに安定な2次のNSを併用して16~64fsで使えば、周波数も高過ぎず、直線性もよい最高のDACが作れる筈なのです。しかも8~10bitのDACはVIDEO用の高速な製品が安価に量産されています。これを使わない手はない。…って いう論文を同人誌に発表したのはもう5年も前です。トホホーっ。 

もし現代のオーディオ技術者が馬鹿ばかりでなければ21世紀はミドルbitDACの時代となり、かのマランツのプレーヤは歴史の金字塔として語られるようになるでしょう。
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歴代DAC
代表モデルの特徴を簡単にまとめてみると。

TDA1540
上記にある様に見せ掛けの16bitでなく実質の16bit精度を目指したDACチップです。当時の技術では16bit精度はフォトマスクの分解能の限界値から14bit精度(確度)のDACの方が高い精度が得られる。4倍オーバーサンプリングで1bit分,6dBのSNを稼ぎ、2次のノーズシェーパーで同様に6dBのSNを稼ぐ。これによってどのメーカーもなしえなかった17bit精度を作り出す。

TDA1541
云わずと知れた16bit DACで、多くのモデルに採用され根強いファンに支持されている。
抵抗ラダー型の精度(誤差)が製造技術に依存してしまう欠点をダイナミック・エレメント・マッティング(DEM)を採用する事により実質的微小領域の直線性とS/Nを得ているが、その為のトリミングが煩雑で歩留まりが悪いというコスト要因のため、1 bitへの移行を検討する事になる。

TDA1547
”フィリップスが開発した1bitDACで、最大bitも最小bitもありませんのでDAC精度としては電圧的には電源の精度(電源電圧の変動が信号にモロに乗る)、時間的に は水晶発振器の精度になります。直線性のよいDACシステムになります。2次NS つき128fs1bit(これは本物)DACでした。”実に全体として18. 5bit相当の分解能を有していた。上記のコメントを再度引用すると実はこの 1bitDAC(TDA-1547)、先述の14bit(TDA-1540)DACと同じ発想を更に進めたものだったのです とある。





2 件のコメント:

  1. こんにちは。
    studer関連でで検索していたらたまたまたどり着いた者です。
    気になったところをいくつか、

    > つまり1秒を44100分割して、分割した1パートの範囲内では「変化して いない」とみなしてしまうのです。つまり1秒を44100分割して、分割した1パートの範囲内では「変化して いない」とみなしてしまうのです。

    厳密には違います。
    あくまで瞬間の値です。
    ちなみにそうみなしてしまうと0次ホールド特性が加わる形になります。

    > 1bitDACは最大bitも最小bitもありませんのでDAC精度としては電圧的には電源の精度(電源電圧の変動が信号にモロに乗る)、時間的に は水晶発振器の精度になります。

    これはマルチビットDACにおいても同じでしょう。
    最近のDACはどちらの影響も受けにくいような工夫がされているようです。

    > 実は、オーヴァサンプリングを行うと4倍につき1bitの割合で分解能がUPしていたのです。
    > そこにNSを使うと、更に2倍につき1bit、分解能が上がるのです。

    この辺はかなりアバウトな見積もりですね。
    あくまで実使用上はということでしょう。
    正確には演算精度や周波数域によって分解能は異なってきます。
    もっと言えば4倍オーバーサンプリング程度では逆に悪化する部分が出る恐れがあります。

    > もし現代のオーディオ技術者が馬鹿ばかりでなければ21世紀はミドルbitDACの時代となり、かのマランツのプレーヤは歴史の金字塔として語られるようになるでしょう。

    まさにそうなってますね(^^)
    ノイズシェーパーもかなり進化しているようです。

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    1. コメント有難うございます。

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