2012年11月14日水曜日

Lowther ラウザー(ローサー)を読み解く#2.1

前回、記号としての、実体としての- Lowther  ラウザーを読み解く、とした。
今回は、磁気回路廻りを取り上げたい。

同一の振動系で、磁石・ボイスコイルの材質・磁力の多寡によるシリーズが用意されているスピーカーユニットであるから、ボイスコイルの材質の違い・マグネットの違い、それぞれの特徴を調べてみたい。実際、音はどのように違うのだろうか。


--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
- ボイスコイル -
線材
ボイスコイルの線材アルミ シルバー カッパー がある。カタログでは、アルミニウムとシルバーの記載はあるが、カッパーの記載はない。此れに、ハイフェリック処理が加わるので都合、6種類のボイスコイル材質がある。

スピーカーに関係するそれぞれのファクターは:密度・機械強度・熱伝導率・熱膨張率の各抜粋は-wikipedia-より以下のとおり。

密度 (室温付近)2.70 g·cm-3
電気抵抗率(20 °C) 28.2 nΩ·m
熱伝導率(300 K) 237 W·m-1·K-1
熱膨張率(25 °C) 23.1 µm·m-1·K-1
シルバー
密度 (室温付近)10.49 g·cm-3
熱伝導率(300 K) 429 W·m-1·K-1
電気抵抗率(20 °C) 15.87 nΩ·m
熱膨張率(25 °C) 18.9 µm·m-1·K-1
カッパー
密度 (室温付近)8.94 g·cm-3
電気抵抗率(20 °C) 16.78 nΩ·m
熱伝導率(300 K) 401 W·m-1·K-1
熱膨張率(25 °C) 16.5 µm·m-1·K-1

密度の比較
アルミニウム:2.70 g·cm-3 < 銅:8.94 g·cm-3  < 銀:10.49 g·cm-3

電気抵抗率
銀:15.87 nΩ·m < 銅:16.78 nΩ·m < アルミニウム:28.2 nΩ·m  ; (20 °C

熱膨張率
銅:16.5 µm·m-1·K-1   < 銀:18.9 µm·m-1·K-1 < アルミニウム:23.1 µm·m-1·K-1 (25 °C

電気抵抗率はアルミニウムは銅の1.68倍 密度は0.3倍 であるから同じ抵抗値であれば、アルミを1とすると、銅は約2.7となる。
抵抗値が倍となると面積を1/2 半径 0.75Rから線径=0.15 同様に銀の場合は、電気抵抗率はアルミニウムは銀の1.68倍 密度は0.3 であるから同じ抵抗値であれば、アルミをとすると、銀は2.7となる。 抵抗値が倍となると面積を1/2 半径 0.75R から 線径=0.15

コイル仕様
ボイスコイルの現実的な選定として、密度が小さく・抵抗値が低く・熱膨張率が小さい事を或いは16Ωの仕上がり直流抵抗値として具現できるかとい事である。
抵抗値は、R = \rho \frac{L}{A} [Ω] 
R=8 or 16電気抵抗率 \rho 導体の長さを L [m]、導体の断面積を A [m2]  voice coil diameter
どちらのインピーダンスであれ一定の駆動力が必要となるため、ターン数は同じで、前回記したようにラウザーのポイスコイルはコーン紙の内と外の両面に巻かれていて、実際のターン数を数えてみると25回×2となるので、これから アルミニウムで逆算した線径は0.20φである。
マグネットワイヤーの規格ではイギリスと日本では異なるかもしれないが、近似の線径とターン数を試算してみると:

アルミニウム  0.20φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g 
アルミニウム  0.20φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g 
アルミニウム  0.20φ 直流抵抗値 : 15Ω 50n :   コイル重量 : g  

カッパー     0.15φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g 
カッパー     0.15φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g  
カッパー     0.15φ 直流抵抗値 : 15Ω 50n :   コイル重量 : g  

シルバー     0.14φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g
シルバー     0.14φ 直流抵抗値 :   50n :   コイル重量 : g  
シルバー     0.14φ 直流抵抗値 : 15Ω 50n :   コイル重量 : g  

以上の算出は、実測ではなく、推定値で、マグネットワイアーはインチとなるため厳密に云うと重量他の値も事なってくるので参考値である事に留意いただきたい。

インピーダンス

                ウッドコーンスピーカー DCU-F131W 特性図

上図は、よく知られた一般的なスピーカーのインピーダンスカーブである。インピーダンスの詳細はティールスモールパラメータが有名で詳しくはこちらを参照いただきたい。これらのパラメーターは、如何に低音域を上手く出すかという事に注力されている事が判って頂けるだろう。

ボイスコイルの純抵抗値を公称インピーダンスとして周波数が高くなるに連れて高域インピーダンスが上昇している。この上昇分はボイスコイルのインダクタンスによるモノで、一般的にはネットワークで分断されるので殆ど無視されている。

フルレンジの場合は、負荷状況で出力特性が影響を受けるパワーアンプから見ると、エネルギーバランスに影響を与える為、実は音質への影響を考慮に値するファクターである。と言っても、インピーダンス・インダクタンスは磁気回路・ボイスコイルの仕様決定に伴い自動的に決まるので、これ自身を恣意的に設計する事は無いので、実際に考慮することは出来ない。そのために、アンプを選ぶ事になる。マルチウェイのスピーカーよりもアンプの違いが顕著である傾向がある。

何を選ぶか
面白い事に、ラウザーのホームページ:テクニカルインフォメーションに、シルバーとアルミの選択基準が示されている。今回関連する項目の概略をここで紹介しておきたい。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Silver or Aluminium?
設置する場所が、ライブな部屋であったり日常的に使わない環境 別荘とかの場合はシルバーを推薦している。 アルミは、デッドな部屋での使用の場合、アタックがきちんと再現できる。 またウォームアップの時間を要すると記している。 

アメリカのラウザーディーラーは、シルバーは折角の軽量さを阻害しているとして、アルミを強く推薦しているようだ。

8 Ohm or 15 Ohm?
真空管アンプには15 Ohm、半導体アンプには8 Ohmを推薦している。

The Lowther 'Hi-Ferric'™ Coil Control System
磁性流体の利点を生かしながら、そのセンタリング機能が周波数に依存してしまう流体の欠点を解決したのモノと謳っている。酸化鉄の粉末を高耐熱製プラスティックでボイスコイルに固着させている。これは、当初の目的以外にも大きなアドバンテージを得ている。 ボイスコイルに電流が流れる時に、(音楽)信号の極性により、磁気ギャップからボイスコイルを引き寄せたり離したりする力が働く。(結果的に)ボイスコイルの(反応)速度を速め、反応時間を削る事できた。このシステム磁気ギャップの中点に位置づけ、不要なコイル鳴きも最小レベルに抑える事が出来た。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Silver or Aluminium?
この説明は正直良く判らない。ただ、アルミの場合は、通電してしばらく時間を要する様なので、熱膨張率の関係なのだろうか。電源を入れてすぐに再生すると、断線のようなトラブルが有るという事なのだろうか?

8 Ohm or 15 Ohm?
一般な選択基準で、ボイスコイル重量までは触れていない。

The Lowther 'Hi-Ferric'™ Coil Control System
この説明通りであれば、素晴らしい機能を持っている事になる。ちょうど鉄心入りのMCカートリッジの様な構成になる訳だ。実際のところボイスコイルの表面に形成された磁性体がどの様に振舞うのかは釈然としない。誘導起電力を減ずる為に設けられたショートリングに似た働きをするんだろうか? 機序はもう少し調べたい。 
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ボイスコイルの音の違い
公称インピーダンスが同じであって実際の電気特性は異なるため、音の違いがそのまま素材の違いとは断定的に判断できないが、

・アルミニューム・ボイスコイル
素材自体が軽量である事が第一の利点である。導通抵抗が高く、同じインピーダンスを少ない巻き線で得られることから軽量化と共にインダクタンスを低くでき、インピーダンス特性の大きな上昇が押えられた高域特性となる。ボイスコイルの仕上がりが軽量であるため反応の良さ・レスポンスが期待できる。ところが、音を聴くと、高音域が一番きらびやかさを感じさせるのが、アルミであった。レスポンスも他のものと比べて特に優れているようには感じられなかった。また、熱膨張率が大きいために、熱放射性は良いのだけれども、ラウザーでの使用ではパワーハンドリングに余裕が無いようである。高域インピーダンスの上昇が穏やかである為、半導体アンプとの組み合わせが良い様に思う。音色感がフラットでコントラストが弱い印象だ。

・コッパー・ボイスコイル
最も一般的に用いられる銅線によるボイスコイル。導通抵抗が低く同じインピーダンスでより多くのコイルが巻けるため、質量は増すがその分高い駆動力を有する。熱伝導率が良く、熱分布が均一化されるため高いパワーハンドリングと共にパワーコンプレッションを低く抑えられる。音色感に関して、銅はシルバーと良く似た表情を持っているが、音色感は幾分明るい。

・シルバー・ボイスコイル
物性・電気的特性は銅線に近いボイスコイル。導通抵抗が低く同じインピーダンスでより多くのコイルが巻けるため、質量は増すが駆動力を高める。熱伝導率が良く、熱分布が均一化されるため高いパワーハンドリングと共にパワーコンプレッションを低く抑えらる。音楽を聴くと、音色感もニュートラルな印象である。嫌味の無い(嫌な音を出さない)一番しっとりとした鳴り方をするのがシルバーで、あった。

・ハイフェリック
シルバーボイスコイルで、ハイフェリックの有るモノと無いモノを比較した。音の浸透力・遠達性でハイフェリック仕様の方が優れていると感じる。

ボイスコイル まとめ
ムービングパーツの重量が少しでも軽いほうが有利であると思い、アルミが線径も細くなり一番軽量である為、真空管アンプで駆動する16Ωに期待した。ところが、音を聴くと、高音域が一番きらびやかさを感じさせるのが、アルミであった。レスポンスも他のものと比べて特に優れているようには感じられない。コイルそのものの鳴きが影響しているように感じる。上述したように、一番しっとりとした鳴り方をするのがシルバーで、音色感もニュートラルな印象である。銅はシルバーと良く似た表情を持っているが、音色感は幾分明るい。それよりもハイフェリックの効果の方が音への影響は大きく、再生時の音の安定感とともに細かなテクスチャーが表出してくる。

結論としては、シルバーか銅のボイスコイルでハイフェリック仕様 インピーダンスは半導体アンプであっても15Ωの方が僅かに良い様な気がする正直な所良く判らない。僅かの重量減よりも、ボイスコイルの剛性・レゾナンスの法が重要なファクターであるのかも知れない。アルミのハイフェリック仕様は未試聴なので、判断は留保しておきたい。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
- マグネット -
Lowther(ラウザー) はまったく同一の振動系を使って磁石の種類・強さを様々モデルレンジを揃えている。 この様な製品レンジを揃えているのは、知る限り後にも先にもラウザーだけである。ラインナップはこちら

この事は、製造メーカーとして合理的に見えて、実に不合理な事をやっている様にみえる。 一般的な変換効率のスピーカーであれば差異は出ないが、変換効率を高めていくとその差異が明確に音に反映される事を、彼らが知っている事を意味している。

エンクロージャー設計時における指標と為るティールスモールパラメータがあるが、ラウザーのユニットはオーバーダンピングの傾向があり、通常の一般スピーカのようにこの基準を上手く適用できないが、ユニットの性格が判るのでパラメータをサイトから拾い出してみよう。
アルニコ フェライト ネオジム フィールドが代表的なマグネットで、その特徴を纏めてみよう。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
共通パラメータ
DC Resistance of Voice Coil    Re     7.4 ohms
Free Air Resonance      Fo     45 Hz
Emission Piston Area   Sd     0.021M²

Lowther PM4 Drive Unit [Alnico アルニコ] 
Equivalent Volume SuspensionVas60.489 Ltrs
Suspension ComplianceCms965.934 u M/N
Mass of ConeMmd11.0 g
Mass of Moving PartsMms12.75 g
Force FactorBl12.511 T-M
Mechanical Q FactorQms3.75
Electrical Q FactorQes0.172
Total Q FactorQts0.164
Voice Coil Inductance @ 1 kHzLe23.178 uH
Reference EfficiencyNo3.176%
Sound Pressure LevelSPL97.038 Db

Lowther DX4 Drive Unit  [Neodymium ネオジム]
Equivalent Volume SuspensionVas52.321 Ltrs
Suspension ComplianceCms835.497 u M/N
Mass of ConeMmd11.0 g
Mass of Moving PartsMms12.75 g
Force FactorBl11.246 T-M
Mechanical Q FactorQms4.808
Electrical Q FactorQes0.229
Total Q FactorQts0.218
Voice Coil Inductance @ 1 kHzLe28.347 uH
Reference EfficiencyNo2.567%
Sound Pressure LevelSPL96.112 Db


Lowther PM6c Drive Unit [Ferrite フェライト]
Equivalent Volume         Suspension Vas    56.046 Ltrs
Suspension Compliance Cms894.981 u M/N
Mass of Cone Mmd11.0 g
Mass of Moving Parts Mms12.75 g
Force Factor Bl7.246 T-M
Mechanical Q Factor Qms4.788
Electrical Q Factor Qes0.510
Total Q Factor Qts0.461
Voice Coil Inductance @ 1 kHz Le87.723 uH
Reference Efficiency No1.11%
Sound Pressure Level SPL92.473 Db
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Alnico アルニコ  Alcomax3
長所
高温での使用に向いているところから、精度を要求される精密機器部品等に多用される。また、鋳造により製作され機械的強度も優れている。

短所
磁石にとって重要な特性である保磁力が小さく、減磁し易い。寸法比に注意する必要がある。また、サイズによっては金型が必要となり価格的に十分な検討を要す。

ラウザーが電磁石から磁石に変更をして、PM[Permanent Magnet]と名付けた時の磁石がアルニコであった。そのため、ラウザーといえばアルニコとの印象が強い。

メーカー表記では、使用しているマグネットはAlcomax3とある。アルニコの諸現表を参考までに添付した。以前の表記ではAlcomax5と為っていたが、変更になったのだろうか?
これを見るとAlcomax3とAlnico5の組成はほとんど同じでNbが添加されているようである
磁力特性も、大きくは変わっていない。タンノイでも以前はAlcomax5であった物が現在は Alcomax3と為っているから、以前は5がありその後継が3という事なのだろうか?今回マグネットの事を色々調べてみたのだけれども、Alcomax5という仕様は無い様で、誤植かもしれない。
因みに、初期モデルはTiconal を採用していた。 

こんな記事があったので参考までに。
Audio Asylum Thread PrinterThe only references on the Internet that I can find for Alcomax 5 are the Lowther PMA4 and the REPS-R1. There are other references for Alcomax 1-4, Alcomax S.C., and Columax, but none for Alcomax 5 except those two companies. It makes me wonder if it's a misnomer on their part, or perhaps a special alloy that nobody else uses?
If anyone knows alternate names for that particular alloy, or can tell me more about it, I'd be grateful.
And speaking of those two drivers, does anyone know if the "cobalt alloy" or "super alloy" they use in their pole pieces is for all intents and purposes Permendur? If not, I wonder what it is . . .
Thanks! 
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

CoCrNiFeMoVCuAlWCOthers
              Alni 1--24.5BAL--612.5---                 

Alnico 213-17BAL--610-0.1-

Alnico 524-14BAL--38---

Alnico 835-15BAL--47.5--5.0 Ti

Alcomax 221-11BAL--4.258---

Alcomax 324.5-13.5BAL--38--0.75 Nb

Alcomax 424.5-13.5BAL--38--2.0 Ti

Ticonal25-15BAL--38--2.0 Ti

3% Co39-BAL1.5----1-

6% Co69-BAL1.5----1-

9% Co99-BAL1.5----1-

15% Co159-BAL1.5----1-

35% Co356-BAL----41-

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

              

1 & 2  (2) 放射性安定化フェーズプラグ& (1)取り付けボルト。
3  高温多湿耐用 ポリエステルフォーム(ウレタン)エッジ。
4  内外両面巻き成型ボイスコイル。
5  処理済サブコーン。
6  処理済メインコーン。
7  高温多湿耐用 ポリエステルフォーム(ウレタン)ダンパー。
8  高気密性フランジ付アルミ鋳造フレーム。
9  高磁力保持材製 トッププレート(外側)。
10 高磁力保持材製 トッププレート(外側) 磁気ギャップ磁束密度 2.4 tesla 達成可能金属。
11 Alcomax 3 alloy 鋳造マグネット
12 ポールピース 高磁力保持材製 磁気ギャップ磁束密度 2.4 tesla 達成可能金属。
13 Magnamax センターポール。
14 マグネット取り付けボルト。
15 ベースプレート 鉛除去 純鉄(低炭素鋼)。
16 鋳造アルミニウム 支持ブラケット。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Neodymium ネオジム Hi-Ferric'™ Rare Earth
ネオジム磁石はネオジム・鉄・ボロンを主成分とした成形焼結品で、非常に優れた磁気エネルギーは現有磁石最高である。錆びやすい為、主にニッケルメッキで表面処理の必要がある。

長所
実用磁石としては、最高の磁気特性を持ち強力な磁場を作る。また、割れや欠けが少なく機械的強度にも優れている。同じ希土類磁石のサマコバ磁石より安価であることも大きな長所である。 機械加工による用途に合せた形状の製作も可能で、少ロットでの試作等にも向いている。磁気特性が高いので小さいサイズでも磁力の強い磁石が作れる。

短所
温度特性が低いこと。通常品では80℃未満が使用条件となる。また、大変錆びやすい為、ニッケルメッキ等の表面処理が必要である。現在では200℃未満が使用条件のタイプも普及しているが、他の磁石と比べて温度特性は低くなる。

詳細仕様は「Hi-Ferric'™ Rare Earth」と記載されているので詳細は判らない。

Ferrite フェライト
長所
原料の酸化鉄が安価で、耐腐食性・耐酸化性にも優れている。磁気特性は希土類磁石に及ばないものの、保磁力が大きいので減磁しにくく大変安定している。

短所
機械的強度が低いので陶器のように割れ易い。製作には金型が必要となり、試作品への対応は難しい。数量が見込める大量生産に向く。

残留磁束密度(Remanence
材料の磁気特性を表す磁気ヒステリシス曲線において、外部磁場を飽和磁化の状態となる高い値から0に戻した時に残る磁束密度の値をいう。残留磁化(Residual Magnetization)とも言う。この値が高いほど、利用可能な磁束密度が高い。単位はSI単位系でテスラ[T]、CGS単位系ではガウス[G] で、Brの記号で表わされる。等方性材料の場合は、残留磁束密度は飽和磁化の50%から75%程度になるが、希土類焼結磁石材料においては磁化容易軸方向が磁化方向に配向されているので、残留磁化は飽和磁化の95%以上となる。

スピーカーのマグネットに関する技術的な解説はJBLテクノロジー解説に詳しいので参照いただきたい。

マグネットの形状
ラウザーのマグネットの横断面は円筒形ではなく樽型をしている。
”これは磁気曲線の描く曲線に習っている”と以前にユーザーの方からお話を伺った。がラウザーはエンクロージャがバックロードでの仕様が前提である。バックキャビティーを必要とするため奥行きは出来るだけ短くしたいが、磁路長も出来るだけ長くしたいという苦肉の策ではないだろうか。
理由は良く判らない。旧タイプの御結び型の方が音が良いという意見もある。なぜ初期モデルには、御結び型を採用したのかは、今一度考えてみたい。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
-磁気回路
ポールピース
Magnamaxと表記されている。おそらくヨークと同材の純鉄(低炭素鋼)だと思うのだが、わざわざMagnamaxと記しているので違う素材なのかもしれない。

トッププレート
最も磁束密度を高く集束できる素材としてされているパーメンジュールが非常に高価で、且つ加工性が悪いので採用しているモデルは僅かである。この素材を使用したユニットは日本製のホーンドライバーユニットが独壇場であった。近年では、カートリッジの磁気回路に採用するモデルが出てきている。海外のユニットでパーメンジュールを採用しているのは、仄聞ではラウザーPM4ぐらいしか知らない。但し以前のカタログにはパーメンジュールと記載があったモノが現在では2.4 tesla 達成可能金属と表記されている。表面処理をしてあるのかもしれないが、色も黒い。

ヨーク
鉛除去 純鉄(低炭素鋼)と表記されている。

磁気ギャップ
ヴォイスコイルは径:3.9cm 高さ: 5mm 内外2層巻き ターン数 : 50 ギャップ厚み: 5mm
トッププレート:10mm 7mm 切削し落とし込み。 写真はPM4であるが、DX4 もほぼ同じ仕様と思われる。 
 
    
ポールピースの表面積を小さくし、磁束を絞り込めば、使用している永久磁石の種類(Br が異なる)に関わらず、ポールピース材料に何を使用するかで飽和磁束密度も左右されるが、強い磁場を発生させる事が出来るはずである。しかし、実際はストロークの問題もあり、無定見に絞る事は出来ないのである。 

出来るだけ高い磁束で(リニアリティー)でボイスコイルを駆動したいとして一般的なユニットで11000Tesla前後 ラウザーではベーシックグレードで1.75 Tesla トップモデルで2.4 Tesla である。フェライトマグネットでは、本質的な磁束密度が低いためにポールピースの表面積を小さくする必要があり、ラウザーの場合でも4mmと小さくしているが、この時の磁束密度が1.75 Teslaである。2.0Tesla以上を実現するには表面積を更に絞り込む必要があり、ストローク・リニアリティーから意味の無いことになってしまう。 

ネオジムでは、マグネットの体積が小さいので設計の自由度があるように思うが、熱に弱い事も相俟ってウーファでは使用が難しい。フルレンジでも、現状ではあまり良い結果は得られていないようだ。

ストローク ±1mmの攻防
カタログに表記されているストロークは±1mmである。 トッププレート10mmから磁気ギャップ巾5mmに絞り込んで、磁束密度を限界まで高めている。

僅か2mmの道程で音楽信号のすべてに順応しなければならない。
これは逆説的にほとんど動かないにも等しいという事は、リニアリティーを高めやすい事を物語っている。 事実、過去にラジオ技術誌でスピーカーを測定した記事に拠ると、1W入力まではラウザーは0.1%以下の総合歪率特性を示しており、他のスピーカーを完全に凌駕していた。この1W入力時の音響出力は PM4100㏈ である。 能率が90前後の一般的な20cm前後のスピーカーであれば100w入力に相当する。 因みに現在の38cmのスピーカーの能率が概ね96㏈前後で、これを高能率と区分している記述がある。しかし、面積換算 実質の変換効率であれば、90db相当であり実質の変換効率は良くは無い。

マグネットの強さ
アルニコマグネットで視聴したモノを下記に示す。
PM6A Drive Unit  1.75 Tesla   Qts:0.457  Bl : 7.283 T-M
PM2A Drive Unit  2.1 Tesla   Qts:0.211  Bl :10.971 T-M
PM4  Drive Unit  2.4 Tesla   Qts:0.164  Bl :12.511 T-M


これらのモデルも、振動系は共通で、マグネットの強さが異なる。(一部磁気回路に使用している材料は異なるようだ。) 一般に振動系の鋭さを示すQtsが小さい(鋭い)値であるほどに磁石・駆動力Blが強い事を示している。Qtsが小さい(鋭い)値はそのまま低音が出にくい事を意味している。
そのため、エンクロージャーはコンベンショナルな箱による共振構造ではなく音響インピーダンスを高めるバックロードやクオータウェーブガイドが採用される事が多い。

磁石[Qtsが小さい(鋭い)が強くなるほど]実際にはロードを大きく掛ける必要があり、エンクロージャは大型化する事・磁力が程々のユニットの方が音のバランスを得易いなどの結果になる。そのためラウザーに於いても、「製作者は一番PM2Aが好きだった」とか「マグネットの一番弱いPM6Aが音が一番良い」という判断になる。

この様な事情から、PM6Aでバランスをとったエンクロージャに、PM4・PM2Aを取り付けても上手く鳴る事はないだろうと思う。このタイプのユニットの良否は、実際のところエンクロージャーとのマッチングを判断する事になる。エンクロージャに付いては次回に取り上げたい。
*今回の各モデルの試聴はManifestoに取り付けた状態での試聴である。

磁束密度による音の違い
PM6A 
ホーンロードがそれ程長くないエンクロージャを採用すれば、バランスも良く神経質さが無い。アコースタとはベストマッチで、鳴りの良さに加えて、低域の再現も思いの外、良く鳴ってくれる。ところが、Manifestoに入れるとロードに負けるのか切れやレスポンスは不満の残る結果であった。

PM2A
色々なエンクロージャに取り付けても高能率・軽量振動系・強力磁石の特徴を素直に表現し、バランスは一番良い様に思う。そのために、当初はManifestoのモデルレンジとしてこのユニットも設定していた。これだけ聴いていると不満も少ないのだけれど、しかし試行錯誤をしていく過程で許容する能力、限界を感じさせる。具体的には、空気の駆動力がPM4と比較すると弱い。

PM4
このユニットにエンクロージャを合わせ込んで行くと、上記のモデルと同じ振動系(コーン紙)を使っている事が信じられない程の変貌を見せる。音楽のダイナミックスをまるで制限や限界を感じさせない。ローレベルやボリュームを絞った時であっても、脈動する空気のうねる様は何者にも変えがたい豊かさである。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
マグネットによる音の違い
同じ振動系を使ったとしても各条件 例えば磁束密度・ポールピースの形状・重量などが異なるために厳密にマグネットだけの比較ではないという事を前提での比較となる。

Lowther PM6c [Ferrite フェライト]
Total Q Factor : 0.461 と他のモデルと比較するとまったく異なったスピーカーと言える。エンクロージャーもバックロードより一般的なモノが相応しい。そのため音の切れやレスポンスにはいまひとつの印象であるが、帯域バランスは比較的に整っている。惜しむらくは、音離れ・浸透力が良くない。凡庸で、音がスピーカーの周りから離れ飛んでこない。以前はフェライトでも強力型がカタログに載っていたのだけれども、需要がないのか現在は一機種のみである。

Lowther PM4 [Alnico アルニコ] 
比較モデルはこのカテゴリーで最も強力なモノで、Total Q Factor :0.164 である。コンベンショナルな使用ではまったく用をなさずホーンロードを掛けないと使えない特殊なモデルである。音離れは圧倒的で、迫真のリアリティーを聴かせてくれる。

Lowther DX4 [Neodymium ネオジム]
Total Q Factor  0.218  という値が示すように強力な磁気回路を備えているが、アルニコモデルPM-4には僅かに及ばない。結論を言ってしまえば、音は期待が高かっただけに落胆させられた。事有る毎に欠点として指摘されるラウザーシャウト これはまったくスピーカーユニットの所為ではないのだがラウザーは見解まで出しているので、彼らにしても喫緊の課題でもあったのだろう。このユニットは、その対応から製品化されたように思う。一般的には十分なレスポンスの鋭さを有している。そして、指摘されたキツさはほとんど無い。しかしPM-4を聞いた後では、その代償に躍動するレスポンスを失ってしまったように感じてしまう。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
違いを齎すモノは何か
ダイナミックスピーカーは、出来るだけ強力で一様な磁束密度を有した磁気ギャップにコイルを挿入して駆動力を得ているのはどのマグネットでも同じであり其々に最適化されている。アルニコの場合は、断面積を小さくして磁路長を長くする。 フェライトの場合は、断面積を大きくし磁路長(厚み)を短くする。ネオジムの場合は、熱に弱いため、放熱に工夫を要し、あまりに強い磁力は小さな容積で済むためにウーファでは反ってポールピースやヨークの設計(熱容量も含めて)が難しくなってしまう。

そうした考慮の上に、ボイスコイルを駆動する磁力が中立点を介して充分な対称性とリニアリティーを確保出来るかが分岐点となる。実際の条件下では、ボイスコイルに流れた電流によりボイスコイル自身も磁場を発生し、その磁力はマグネットの磁界形成に影響を与える。逆起電力をダンピングファクターやパワーアンプの問題として解決できるとしているが、DCアンプを使ったところでスピーカーの高調波歪が低減する訳ではない。これが磁気回路に起因する高調波歪の正体である。

その影響の度合いは、マグネットの種類に拠る。同じ磁気ギャップに発生した11000Teslaは静特性としては同じであっても、ボイスコイルを駆動すると動作状態が異なってくるのである。この問題点を表しているのが、JBLが採用しているSFGである。読んでいただければ通常動作条件ではアルニコの方が優れていることを皮肉にも示している。

JBLSFGの開発経緯の記述に、アルニコを凌駕したと記して、その論理的思考に基づいた筈のJBLは、何故最高機種DD66000用ウーファ1501ALに再びアルニコ5DGマグネットを採用している。

ネオジムは熱に弱いのでどうしても低音域を再生するためコンプレッッションドライバーとのレベル差からウーファには使用は避けたい。 フェライトでは必要とするマグネットが大きくなり過ぎるし、必要な磁束密度が確保できるかも怪しい。

ところで、下記のマグネット磁力特性はJBLのテクノロジー解説からの引用である。ここで、アルニコの問題点と自社の技術的アピールのために、アルニコの特性を通常使用されるモノよりも弱い特性のモノを表記している。これはいささか稚拙で、技術開発によりアルニコの問題点を解決しましたと喧伝するのは、意図的なミスリードである。Fig 02に示すAlcomaxの磁気特性で、動作点を磁束密度を充分に高い所を設定(11000Tesla前後は標準的な磁束密度)すれば高いリニアリティーを有している事を示している。



マグネットの磁力特性
Fig 01
Fig 02

機械的強度と重量も大きな要素であるように思う。ラウザーPM4 を裸の状態で鳴らしたときにマグネット(8kg)を触ると振動しているのがわかる。この事をJBLのテクノロジー解説ではこのように記している。

低域用ユニットではこの比重の重いアルニコを内磁型磁気回路の中心部に抱き込む構造を採ることで重たいボイスコイルを駆動する際に起こる反作用を質量で吸収し、トランジェントの向上を図ることができます。逆にフェライトは比重が軽いため、他の素材に比べ重量比以上に大きな体積のマグネットを必要とします。

マグネットの組成による振動モードの違いを指摘する意見もある。
オーディオを科学と称して、アルニコもフェライトも同じでアルニコを良しとするのは、オーディオカルトの売らんが為の喧伝としているが拙速な判断ではないだろうか。確かにアルニコだから良い音がする訳ではない。

それは、ある変換効率を超えて初めて、磁束密度で云えば2.0 Tesla以上 Qts:0.2以下の条件で、マグネットの種類や強さに拠る音の違いが顕著に顕れてくる、という事だと思う。
この条件を満たすのには、ストローク・磁気ギャップ・振動モード・重量・耐熱を考慮するとアルニコが現在でも一番優位である。

この事は、ラウザー同様にフォステックスの限定モデルの変遷をみれば、それがそのままスピーカーに於ける磁石の優劣を物語っているのではないだろうか。

フォステックスのユーザーは質実剛健を宗旨とし意味のない変更は支持しないだろう。彼等も、アルニコマグネットを採用したモデルを高く評価しているようだ。

ところで、基本構造はまるで姉妹の様に近い構造を持ち同じ思想の上に造られているのに、この両者のユーザー間にはほとんど交流が無いように見える。今回資料を調べると大いに興味を持った次第である。寸法もほとんど同じなので、少しの修正で当方のエンクロージャに取り付けることが出来そうである。惜しむらくは、限定販売で、入手が難しい事だろうか。是非、聴いてみたい。
    
                        
FE208ES-R
                             
                 
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
- 何を選ぶか -

・ボイスコイルはシルバーないし銅 ハイフェリック仕様
 真空管アンプは15 Ohm  半導体アンプは 8 Ohm
・マグネット アルニコ 出来るだけ磁力の強いもの


                                              PM4 Drive Unit

                     

0 件のコメント:

コメントを投稿