2012年8月20日月曜日

Shelter  カートリッジは前進する 六歩目

同名のブログ内容を大幅に加筆修正したので、新たに投稿します。
試聴の結果
前回の試聴では、Shelter【シェルター】 #7000 と SME Seriesⅴ との組み合わせで良い結果が得られた。このアーム、実際にセッティングをしてみると、取説・調整・使い良さを含めて、非常に良く考えられており、音の再現能力も含めて素晴らしいアームだと思う。詳述はこちら
アームでの音の違いを簡単に纏めておきたい。

Well-Temperd Reference Arm -
このカートリッジはウェルテンパードで聴くと、レコードの録音年代や製造時期、音楽のジャンルなど万遍なく対応する懐の深さがある。項目毎の評価はどれも中庸で、正に設計者が意図した鳴り方をするように思う。Seriesⅴを聞いた後では、屈託なく鳴ると言うよりは、型にはまった生真面目な鳴り方に終始し、冗談やシャレまで説明するようなところがある。破綻は無いが面白みも無い。

Artemiz -
”全てが中庸で、空間の表出も普通である。総じてバランスには長けている。 必要にして十分な響きを再現しハーモニーも破綻が無い。しかし、音の飛びと云うか遠達性・浸透力が弱く音に迫真さ・凄みの点で物足りない。” と前回書いたのだけれど、Seriesⅴを聞いた後の正確な印象は、音と響きのバランスが悪い。英語でいうところのTonality,Liquidityが物足らないように感じる。オーディオ的には鮮明な印象で良いのかもしれないが。

Seriesⅴ -
Seriesⅴ に取り付けると、まったく違った貌を見せる。欠点を一つ一つ潰し、減算した結果得られた様なネガティブな中庸さでは無く、中庸さが積極的な美点となり、全てが数段上がる印象だ。低音域の響きと切れが素晴らしく、そのため、ハーモニーがリアルに形成されるのである。

この音を聞いていると・・。”無線と実験”だったかに、SME Seriesⅴの測定結果が記載されていた事・・を思い出していた。一般的にアームの低域共振は15Hz前後を共振峰として盛り上がった特性を示すのであるが、SME Seriesⅴ のそれは、ほぼフラットと言えるほどなだらかでありながら、15Hz前後で急峻に減衰しており、固有振動の少なさを示す見事なモノで機械インピーダンスも頭抜けて良くコントロールされていた。オーディオの測定結果と実際再現される音の間には、実際にはほとんど相関の無い事を経験上知られているが、SME Seriesⅴ は十分に測定と試聴を繰り返ししてきた事を髣髴とさせる音である。

シェルターのカートリッジはアームをあまり選ばないと思っていたが、今回考えを改めることに成りそうである。


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ドイツ製のビンテージ
先のブログで、音に若干の強調感があるとお伝えした。当初はある程度の慣らしで解消すると思って暫しの馴らしを経た後に、針圧・アライメント等調整したのだけれども、強調感は消えない。メーカーの意図している音を確認するために、アーム付属のケーブルを変更するのは、時期尚早との思いもあったが早々に見切りをつけて、ビンテージケーブルを試す事にした。

早速、30年代ドイツ製のビンテージケーブルで製作し試聴すると、件の強調感は一掃されている。予定調和のような結論で、申し訳ないが、不思議な程の変化であった。

同様にArtemizも再度このケーブルに変更するとどの様な変化を示すのか、その他に見落としている点の洗い出しも含めて、このアームの試聴結果は次のブログに纏め直す予定でいる。

さて、シェルターのカートリッジを中心にその変遷をたどりながら、アナログの現在を確認する試みは、カートリッジの評価には不可分であるトーンアームへと視点が移ってしまった。組み合わせでの評価であり単独の評価は困難とするオーディオの宿命でもあるが、楽しみでもある。
今回のアーム、評価モデルを整理したい。

カートリッジ   :  Shelter【シェルター】 #7000
                          : Shelter【シェルター】 #7000H(ハーモニーの振動系)
                          : Shelter【シェルター】 #701H(ハーモニーの振動系)

ターンテーブル : Roksan【ロクサン】 Xerxes 
アーム      : SME SeriesⅤ 
アームケーブル : 1920年代 ドイツ製ケーブル  

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試聴システム
Roksan Xerxes + SME Series ⅴ + Original Board 
今までの試聴経緯からこのシステムで各モデルを検証してゆきたい。

❙試聴レコード❙
”We want MILES” Side Two "Fast Truck"  Side Two "Jean Pierre" CBS SONY  : Stereo
”Jazz at the Santa Monica Civic'72”  PABLO  : Stereo
"MJQ European Concert volume 1"  Atlantic : Stereo
”Basie Jam Count Basie”  PABLO  : Stereo

"The BARYLLI Quartet" Beethoven String quartets No 10 "  Whestminster : Monoural 
" Jean-Pierre Rampal Robert Veyron-Lacroix A.Vivaldi IL Pastor Fido "Erato stereo
" Violin Sonata No. 3 in A major, Op. 1, HWV 361 Alfredo Campoli  George Malcolm "

Händel 4 concerti grossi op.6 karl richter Münchener Bach-Orchester” Archiv
”Beethoven Symphony  Pastorale Bruno Walter Columbia Symphony Orchestra”  CBS


❙ Shelter【シェルター】 #7000
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印象
現行のカタログモデルである。当然ながら、基本仕様は下記モデルとの近似である。スペックは、現代カートリッジのスタンダードである、ネオジム・ボロンで針先の曲率は楕円という仕様である。

カンチレバーの材質・針先の形状・マグネットの違いが音にどの様に変化するのかを確認する事が、今回の第一の主眼であった。再現される音楽の表情は当然ながら、これらモデルは同じ範疇にある事は同然予想される事である。一様な条件化で比較すると、少なからず違いがある。その変化は、音楽をインティメートな自己との確認と捉える音楽愛好家にとっては、とても大切な意味を持つだろう変化だと思う。 

#7000 はアーム選定の時にこのモデルを標準としていたので、前述のとおりSeriesⅴ で聴く限り全く不満はない。現代カートリッジの美点は全て備えている。

ところが、同じ条件下で比較をすると、楽器の響きや音色に僅かではあるが強調があり、積極的でビビッドな印象である。後述の”外に鋒鋩して顕かなのは人間として練れていない証拠”という表現がピッタリと当て嵌まってしまう様に思う。この質感の違いは、音楽を聴く上で大きい。

今まで、ネオジム・ボロンに抱いていたイメージを、半ば超えて、半ば留まっている。

この評価も前作の901の印象と較べると、音色の再現は随分と改善されており、あまりボロンを感じさせないのでダンパーが変更されているのではないだろうか? 

❙ Shelter【シェルター】 #7000H
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印象 
強調感も一掃され、不思議な事に音が出ているバックグランドが非常に静かなのである。
"MJQ European Concert volume 1" では、演奏の向こう側で聴衆が息を潜めて楽しんでいる 気配が立ち顕れる。”We want MILES” では部屋が飽和する音量の演奏の向こう側に聴衆が確かに居る。

レコードであっても時を超えた”今・ここ”を共有するに十分な音である。現出される音楽は生の音の表出感を備えながらまったく作為的な強調感は無い。エネルギーは無音や弱音でさえ横溢している。 将に、”いまだ木鶏に至らず”と双葉山が語った、木鶏の如し
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木鶏とは、戦わずして勝つ、胆力をおのれに深く蔵して少しも動じない様を喩えた言葉。
真に気迫充実しているが故に、一見すると木鶏の如くい静かなる状態になっている様。
闘鶏飼育の名人が闘鶏は木鶏の如くに動かざる鶏が最高であるとした故事から。

老子の言葉に「深く蔵して虚の如く、容貌は愚の如し」とあるように、外に鋒鋩して顕かなのは人間として練れていない証拠であるとする。 出典は荘子の達生、列子・黄帝。
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MONOが好い
ステレオでの試聴が予想以上によい結果が得られたので、懸案でもあったモノーラルレコード:
ブルーノートの1500番台 10インチ盤 デッカ グラモフォン EMI などのオリジナル盤・再販盤がどの様に再現されるのか?

ラインコンタクト針の小さなダイアモンド(針圧1~2g)が、LP時代の0.5ミルに合わせてカッティングされたグルーブ(新圧5g前後)をトレースするとどんな音になるか、今までレプリカント・ファインラインなどのラインコンタクト系は特にモノーラルレコードを再生するとエネルギーが希薄に為りがちで、音もナローな印象で、MONOには専用のカートリッジでなければ、という印象を持っていた。

ところが、鳴るのである。 それも抜群の再現で。

音は瑞々しく、響きは豊か。モノという事を全く意識させない。生演奏の持つマッシブなエネルギーに近い臨場感と立体感が創出されるから、音楽の文字どうり”音を楽しむ”ことが出来る。

❙ Shelter【シェルター】 #701H
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印象
このモデル期待をしていたので、比較する事を楽しみにしていた。ところが、#7000Hと比較して、予想していたほどの違いは無かった。今までオーディオに使用するマグネットは、アルニコが最適で、ネオジムには、あまり良い印象が無かったので、肩透かしであった。

ネオジム
ネオジムは、第一に音色が出難い。第二に音が飛んでこない。これが今まで持っていたイメージである。ネオジムがこのような傾向があると経験的に判断しても、それが本当に磁石のせいなのか、重量や形状それに伴う振動モードの違いなのか、断定的な判断は突き詰めて考えれば、結果と原因を結びつける確証を得る事は極めて難しい。

今回の試聴で判った事は、シェルターは、今まで持っていたネオジムのイメージを払拭してくれた事である。

#701vs #7000H
正確な比較を記せば、音の伸び・浸透力は #7000が一番優れていた。
音色の豊かさは両者を較べてもほとんど遜色が無い。#7000Hは音色そのものが、僅かに明るく、空気感も軽い。対して#701は幾分暗く陰影があるように感じる。そのため、敢えて言えば#701Hの音色には、表情に冴えがあるようにも思う。

以前取り上げたオルトフォン Ortofon SPU の初期モデルが一線を画して高く評価されているのは、作為を感じさせない豊かな音色感ゆえであると思っているが、比肩しえる豊かさがある。

重量は僅かながら#7000H が軽く仕上がっている。必要とするマグネットの大きさからするともっと軽く為る筈が、ほとんど変らないのは、ネオジムを最適化する為に、磁気回路を工夫した為の重量ではと、推察している。

もう一点、カートリッジのハウジングを爪で弾くと#7000Hは石を弾いた時の様な音がする。
#701Hを同じように弾くと、少し篭り僅かに残響を伴った音がする。ハウジングの違いが、案外両者のニュアンスの違いを意味付けているのかも知れない。

現代カートリッジが総じて分解能とレンジ感に優れているが、音色とエネルギーの再現を苦手としているように思う。その意味に於いて現代カートリッジには懐疑的であったし今も変わらない。しかし、シェルターは、地道な努力でこのジレンマを乗り越えたのではないか。

今回 カートリッジの現在を聴く試みを通じて #7000が示した表現力は、オリジナルの呪縛を解いたと言える程に高いと思う。


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